私は年間分娩数1500件以上の産科病院に勤務しています。
最近、というか数年前から気になっていたことではありますが、
抗精神病薬等を内服している母体が増えています。
10年前に比べると、明らかに多い。
診断がつくようになったからなのか、
母の既往歴にはパニック障害などの病名を
頻繁に見るようになりました。
一部の向精神薬には、
胎児に影響を及ぼすものがあります。
てんかん患者に処方される薬として、
デパケン=バルプロ酸は一般的なものであると
思いますが、これも妊婦には注意が必要です。
抗てんかん薬であるバルプロ酸は、
妊娠中に服用すると胎児の催奇形性リスクが上昇します。
口唇口蓋裂などは代表的なものです。
また、バルプロ酸を服用していた妊婦から生まれた児は、
用量依存的にIQ(知能指数)が低下することが分かっています。
更には、自閉スペクトラム症の発症リスクが高いことも指摘されています。
産科病院で勤務しているので分かりますが、
母親も計画的に妊娠しているわけではない、という方も、
往々にしていらっしゃいます。
気付いたら妊娠していた、
というケースです。
このような場合、仮にバルプロ酸=デパケンを内服していると、
胎児への影響は免れません。
欧米諸国の診療ガイドラインでは
「妊娠可能年齢の女性に対しては、催奇形性があるバルプロ酸の処方を控えよう」
とアナウンスされています。
国内においても、2017年には日本周産期メンタルヘルス学会が
「妊娠可能年齢の女性にバルプロ酸の使用を避けること」
と推奨しています。
さらに『てんかん診療ガイドライン2018』では、
新規発症の全般てんかんの第一選択薬はバルプロ酸となっているものの、
全般性強直間代発作では
「妊娠可能年齢女性ではバルプロ酸以外の薬剤治療を優先する」
という文言が書き加えられました。
このような注意喚起がなされているにもかかわらず、
2018年には当院で出産を予定している妊婦さんの中に、
バルプロ酸を内服継続している方がいらっしゃいました。
胎児スクリーニングでは現状異常は指摘されていませんが、
出生後の発達リスクは依然として残ります。
神経科医の中でも、こうした注意喚起がまだ浸透していない
可能性も考えられますが、常識的な診療をしている医者であれば、
当然知識はあろうかと思います。
基礎疾患が他科のものの場合、
処方内容にまで口を出すことはできません。
出生する時に影響が無いことを祈るばかりです。