私の勤務している病院では、
胎児期のスクリーニングがかなり精密に行われている。
胎児エコーを得意としている周産期専門医がいることと、
何より非常に勉強熱心な放射線技師の方々が、
かなりの精度でスクリーニングを行ってくれる。
こうした大きな産科施設(年間分娩数1500件超)で小児科医が働く上で、
ひとつ大きなリスクとなるのが先天性心疾患であるが、
胎児期に診断することが非常に困難な疾患、
例えば大動脈縮窄症や総肺静脈還流異常などを除けば、
ほとんどの先天性心疾患が胎児期にスクリーニングされて、
その時点で当院での管理が難しいものに関しては、
高次施設に紹介されている。
これにより、我々小児科医は、出生後の低酸素血症の原因として、
ほぼほぼ心疾患を考える必要が無く、肺疾患が原因であると考えて問題無い、
という非常にありがたい状況になっている。
一方で、詳しく見てもらっているが故に、
一般のクリニックレベルではスルーさているであろう
所見まで見つかることが多々ある。
最近、診断される例が増えているのが、
左上大静脈遺残
persistent left superior vena cava(PLSVC)
だ。
左上大静脈遺残PLSVCの頻度
今年は既に胎児期に左上大静脈遺残PLSVCと診断されている症例が
2例いたのだが、PLSVCの頻度はどれぐらいなのかと疑問に思い、
検索してみたところ、次のような報告があった。
この報告によると、
胎児2619例中、PLSVCが7例に認められている。
頻度でいうと、0.27%だ。
300~400人に一人はいることになり、それほど珍しい所見ではないことが分かる。
左上大静脈遺残を認める場合、フォローアップが必要なのか?
これについては、循環器専門医の間でも意見が分かれるようだ。
フォローアップが必要、という人もいれば、不要という人もいる。
そもそも、左上大静脈症候群は通常消退するが、
これが遺残したものを左上大静脈遺残という。
遺残する場合には通常、拡大した冠静脈洞へ接続し、
これを介して右房へ開口する。
左上大静脈遺残単独の所見であれば、
血行動態的には正常であり、
フォローは必要ない、ということになるだろう。
だが、冠静脈洞拡大を認める場合には、
いくつか鑑別しなければならない疾患がある。
冠静脈洞拡大を認める場合の鑑別疾患
冠静脈洞拡大を認める場合には、
いくつか鑑別しなければならない疾患がある。
これを見逃さないよう留意する必要がある。
鑑別疾患としては、
1.左上大静脈遺残
2.総肺静脈還流異常(Darling ⅡA型)
3.冠静脈洞左房交通(unroofed CS:coronary sinus)
4.右房圧上昇
5.冠静脈洞型心房中隔欠損症
が挙げられる。
冠静脈洞拡大を認める場合にはこれらの
鑑別が必要となるため、
循環器専門医に紹介してフォローしてもらうのがベターであり、
確実だろう。