抗SS-A抗体陰性SLE合併妊婦と胎児の合併症~新生児ループスと先天性心ブロックのリスクを考える

母体情報
・38歳
・初産
・他院内科にてSLEと診断されてるが、
症状安定しており妊娠許可が得られた
・既に36週
・胎児の異常は、発育不全、
不整脈含めて何も指摘されていない

2018年11月、朝のカンファレスであがった症例です。

SLE(全身性エリテマトーデス)と診断されているが、
抗SS-A抗体陰性の妊婦さんの管理、分娩について。
そして胎児、新生児についても。

うちは個人開業の産科病院であり、産科医と小児科医のみ。
総合病院や大学病院のように、他科と密に連携が
取れる体制にはありません。

そこで分娩を問題無く行えるのか?
といのが議題。
助産師、看護師からは反発が出ているようです、、、

さて、今回の妊婦さんですが、
敢えて抗SS-A抗体をタイトルに出してきているのは、
抗SS-A抗体陽性女性は1%前後いるので稀ではないこと、
また抗SS-A抗体陽性妊婦から出生した児の1%には、
先天性心ブロックが認められるというデータがあり、
抗SS-A抗体陽性妊婦には注意が必要
という理由から。

今回の妊婦さんは抗SS-A抗体は陰性
だが、腹部症状がメインのSLEと診断されています。

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ここで、SLEの診断基準を確認しておくと、

<診断基準>
① 顔面紅斑
② 円板状皮疹
③ 光線過敏症
④ 口腔内潰瘍 (無痛性で口腔あるいは鼻咽腔に出現)
⑤ 関節炎(2関節以上で非破壊性)
⑥ 漿膜炎 (胸膜炎あるいは心膜炎)
⑦ 腎病変 (0.5g/日以上の持続的蛋白尿か細胞性円柱の出現)
⑧ 神経学的病変 (痙攣発作あるいは精神障害)
⑨ 血液学的異常(溶血性貧血、4,000/mm3以下の白血球減少、1,500/mm3以下のリンパ球減少又は10万/mm3以下の血小板減少)
⑩ 免疫学的異常(抗2本鎖 DNA 抗体陽性、抗 Sm 抗体陽性又は抗リン脂質抗体陽性(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒反応偽陽性)
⑪ 抗核抗体陽性

[診断のカテゴリー]
上記項目のうち4項目以上を満たす場合、 全身性エリテマトーデスと診断する。

となっていますから、
極端な話、抗核抗体が陰性であっても、
臨床症状が合致して4項目以上満たせば、
SLEと診断することは可能、
ということになりますね。

最も、症状が疑われる場合には血液検査が未検、
ということはあり得ないでしょうけど。

実際には疑わしい臨床症状が一つでもあり、
そこを血液検査等の精査で、
診断基準を満たす所見がいくつか出てきて診断される、
という症例が多いのでしょう。

今回の妊婦さんは他院内科にて診断を受けており、
一度当院から大学病院産科へ紹介、
フォローしてもらい、
症状が安定しており、胎児にも問題なさそう、
ということで、当院での分娩は可能、
という判断になったようです。

妊婦は現在もプレドニゾロン8mgを内服中→ステロイド内服中の妊婦を個人開業産科レベルで診るのか??という問題

国立成育医療センターのHPには、
プレドニゾロン換算で15mg/日以下
に減量できた状態で妊娠することが望ましいとされています。」
と記載されています。

今回の妊婦さんは、
8mg内服中。
数字だけで判断すれば、妊娠は問題無いレベルの症状安定度、
と判断することができるのでしょう。

因みに、妊娠中のステロイド内服が胎児にどう影響するかについては、
下記の児島さんという薬剤師さんのHPに詳しく解説されています。

妊娠中のステロイド内服について

※医者なのに薬剤師さんのページなんか紹介して、
と思った方。医者を過信するのは危ないですよ。
(寧ろそんな人は少ないか、今は。)

医療なんて日進月歩なうえに情報量半端ないですかね。
医者とて人間、すべての情報が正確に頭の中に入ってるわけじゃない。

何でも日々確認が大事ですし、専門家に任せるところは任せる、
のも大事です。

医者も40代にもなると自分の主義主張に
凝り固まる人も少なくない・・・困ったもんですよ。
人を雇う時も大変。仕事してみないとクセが分からんですし。
全身麻酔をかけると発達遅滞になる!という思い込み
(危険性を語る論文・データがあるのは事実ですが、
因果関係が確定したわけじゃない)
から、手術が必要な患者も紹介しない、
というキチガイ女医もいましたしね・・・
(他にも問題多々起こしたので当然ながら辞めていただきました・・・
医者として必要な理解力・判断力が無いんだからね、しょうがないです。)

柔軟性ってホントに大切だと思います。
少なくとも私はそう考えて日々診療にあたってます。

さて、話が脱線しました。
上記の薬剤師さんのページ見ました??
分かりやすいですよね。
情報源まで記載してあって。
頭が下がります。

これによると、

プレドニゾロンの90%は胎盤で不活性化され、
胎児に到達するのは10%
1日20mg以下の「プレドニゾロン」であれば胎児に影響はなく、
妊婦でも安全に使用できる

とのこと。

であれば、小児科側としては、
現状胎児にもSLEの影響と思われる症状も出ていないので、
当院でお産も可能、こちら側から拒否するような
状態ではない、と判断しました。

抗SS-A抗体陰性ならば新生児ループスを発症しないのか?

さて、今回の妊婦さんは抗SS-A抗体は陰性だったわけですが、
母体が抗SS-A抗体陰性であれば、出生した児は新生児ループスを発症しないのでしょうか?
そんな素朴な疑問が湧いてきますが、
答えは「発症しないとは言い切れない」になります。

ネルソン小児科学第19(日本語版)、P987には、
次のような記載があります。

新生児ループスは胎児期に母体からのIgG自己抗体の胎盤を
介する移行が原因である。

この自己抗体は、主に抗SS-A/Ro抗体や抗SS-B/La抗体である。

しかし、抗RNP抗体などの他の自己抗体の報告もある

抗SS-A抗体或いは抗SS-B抗体が主な原因、
しかし他の自己抗体での報告例もある、
ということですから、
今回の症例で新生児ループスを発症しない、とは言い切れません。

現状、胎児には発育不全、不整脈も認めませんが、
出生後に何等かの異常所見を認めないとは限りません。
新生児ループスで見られる症状を確認します。

新生児ループスでは皮疹や血小板減少、心症状がみられる

新生児ループスは、母体の抗SS-A抗体・抗SS-B抗体が
胎児や新生児に作用して、
全身性エリテマトーデス様症状を呈します。

胎児期から高度の徐脈をきたす、
先天性完全房室ブロック、皮疹、血小板減少、
肝機能異常などがあり、
心症状以外は一過性で生後1年までに自然治癒します。

先天性完全房室ブロックは非可逆的であり、
ほとんどがペースメーカーの植込みが必要となります。

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